文明世界は今、「心地よい世界」とは言い難いです。例を挙げると、移民の流入、COVID-19の流行、経済危機、ロシアによるウクライナに対する全面戦争への痛切な期待、ひいてはその勃発です。ウクライナ領内でのロシアの戦車と、都市や村に毎日の砲撃によって、ロシアがヨーロッパの政治状況を不安定にしていることを私たちは認めざるを得ません。侵略国家には明確なアルゴリズムがあり、その病的な帝国的野心を諦めようとはしていません。
注意!
この資料にはロシアのホームページへのリンクが含まれています。VPN経由で閲覧可能になります。ロシアの侵略はハイブリッドな性質を持っています。つまり、戦争は実際の戦線と情報の戦線の両方で展開されています。現在世界で起きている破壊的な過程が、偶然の一致や誰かの悪意だと考えている人は間違っています。ロシアは、ウクライナだけでなく、ヨーロッパ全体に対して、ハイブリッドな侵略の新しい段階を開始しました。これは、政治的な不安定化だけでなく、世界舞台の主要プレイヤーの勢力圏、さらに現在の国境にさえも根本的な変化をもたらす恐れがあります。
ロシアは、予測不可能なプロセスや、ローカルおよびグローバルな危機や戦争で世界の混乱が発生している地政学的な乱流の時代を開始したようです。政治舞台における国家や組織の行動を正確に予測できませんし、主要なアクターが守れる、安全保障を保証できる世界秩序を形成することは不可能です。
揺れる時代
2020年からすでに、西洋社会は安定と未来の予測可能性の余地がないヨーロッパ意識の「再形成」に直面しています。当初はCOVID-19の世界的流行が課題となっていましたが、2022年にはロシア・ウクライナ戦争における新たな段階が課題となりました。2月24日にプーチンは、将来の予測とは非常に不安定なもので、21世紀においても占領を目的とした主権国家への全面的な侵略も現実的であることを証明しました。このようにして、クレムリンはついにロシアの積極的な武力政治(実際には、以前の政治も決して平和的ではありませんでしたが、2022年にはさらに武力的になりました)を承認し、同時に地政学的なパンドラの箱を開けてしまったのです。結局のところ、他の国々、特に独裁者が支配する国々の状態と行動は、ロシア・ウクライナ戦争の結果に依ることになります。
パンドラの箱を開ける
「さまざまな災いを引き起こす」という意味のギリシア神話に由来した表現です。パンドラという女性は、絶対に開けてはいけないと言われていた箱を好奇心のせいで開けてしまい、あらゆる災いが飛び出してきました。プーチンは、征服したい地域には平気で武力を行使できることを示しました。例えば、2月24日以降、中華人民共和国の台湾に関するレトリックは、より攻撃的になりました。北京ではレバンシスト的な感情や「一つの中国」の政治的宣伝が行われるようになりました。「一つの中国」とは中国大陸と台湾は不可分の中華民族の統一国家「中国」でなければならないとする政策的立場および主張です。
もう一つの例は、2022年8月17日にシリアで軍事作戦を開始したトルコです。トルコの飛行機が国境基地を攻撃し、11人が死亡しました。これに先立つ2022年8月3日、アゼルバイジャン軍もナゴルノ・カラバフで軍事作戦を開始しました。戦闘行為は2020年に正式に終了していましたが、状況が悪化し、既にアルメニア軍とアゼルバイジャン軍の銃撃戦による死傷者が出ました。
同時に、第二次世界大戦後に形成された現在の世界秩序は、世界に多大な労力を費やすことになりました。たとえ現在の国境線が理想的でないとしても、それを見直すことは非常に危険なことなのです。ここでは、2022年2月22日夜、国連安全保障理事会の緊急会合で、自称ルハンシク人民共和国と自称ドネツク人民共和国の独立をクレムリンが承認したことに関して、ケニアの国連代表マーティン・キマニが行った演説に触れることが適切でしょう。キマニは、ケニアがウクライナの領土保全を支持し、ロシアの国際法違反を非難していることを指摘しました。ケニアや他のアフリカ諸国の国境は、旧帝国(イギリス、フランス、ポルトガル)によって規定されたものですが、21世紀において、この国境を変えるために流血戦争をしなければならないということではありません。
全ては西側諸国のせい
2016年、ロモノーソフ記念モスクワ国立大学(MSU)を基に、「国際関係の戦略的予測」という700ページを超える徹底したモノグラフは、クレムリンの今後10年の地政学的「戦略」を決定しました。このモノグラフでは、ロシアが文明の面で、西側諸国、イスラム諸国、中国という3つの重要なフロンティアに直面していると述べています。そのモノグラフにはさまざまな展開のシナリオが提示されています。その中には、ルーマニアへの攻撃や、ベッサラビアと黒海沿岸地方の一部、下ドニプロ地方とザポリッジャ地方の一部、タウリヤ地方の一部、アゾフ海沿岸地方、ドネツク地方を含むウクライナ地方からノヴォロシヤの拡大版のようなものに関する建設の見通しが述べられました。
ノヴォロシヤおよびタウリヤ県
現在のアゾフ海沿岸地方と黒海沿岸地方とタウリヤ地方の領域で、19世紀初頭から20世紀前半まで存在していました。この間、ロシアはずっとこの地域で植民地政策をとっていたのです。概して、このモノグラフにはクレムリン政権のための段階的な指示が書かれています。その著者が考えたメッセージは以下の通りです:
-「遅かれ早かれ、我々の希望にかかわらず、ヨーロッパとの(あるいはその一部との)闘争は不可逆である。」
– 「真の謙虚さも真の誇りも、ロシアが自らをヨーロッパと見なすことを許さない。」
– 「西側に対して断固として抵抗し、軍事的・技術的・思想的に優位に立つことだけが、ロシアの将来の安定した安全保障を確保できる。」
などです。
モノグラフの著者は、紛争が避けられない以上、ロシアは力による地政学に切り替えるべきだと主張しています。なぜなら、著者の意見では、2023年以降は「手遅れ」になり、その頃にはウクライナはロシアの発展路線からついに背を向けることになるからです。
ロシアは「特別軍事作戦」を完遂し、3日間でキーウを占領して「新世界の誕生」とそこでのプーチンの「歴史的使命」を世間に示す予定でした。その証拠に、2022年2月26日午前8時にRIAノーボスチ紙に掲載予定だった「ロシアの侵略と新世界」という記事が実際の状況より早く掲載されたのです。ロシアのメディアは、ウクライナ人がここまで抵抗するのは思っておらず、現実にはそうなっていないものの掲載予定通りに記事が出ました。クレムリンの世界観がはっきりと反映され、重要なナラティブが言語化されました。ロシアがウクライナを攻撃した理由とその意図がよく表れています。
しかし、プーチンが統治している間ずっと緊張は高まっていました。プーチンの側近やプロパガンダ扇動者たちは、西側諸国を敵にし、ロシア人の全ての悩みの主な原因として解釈していました。
2016年のロシア地理学会の授賞式でプーチンは「ロシアはどこにも終わりがない」と発表しました。ロシアの大統領が年ごとに公式に発表しているテーゼは以下の通りです:
2007年ミュンヘン公演
「国際法の基本原則を無視する傾向が強まっています。さらに、特定の規則やある国家の法制度全体は、特にアメリカの国境を越えて、経済や政治、人道的分野においても、他国に強いられています。誰がそれを受け入れられるのでしょう?誰が?」
2020年 中距離核戦力(INF)全廃条約に関する声明
「アメリカがINF全廃条約を脱退したことを重大な過ちだと考え、その結果、同条約が効力を失ったことで、ミサイル軍拡競争を促進させ、対立の可能性を高め、制御不能なエスカレーションに陥るリスクを高めています。ロシアとNATOの間の絶えない緊張を考慮すると、ヨーロッパの安全保障に対する新たな脅威は明らかです。」
2021年 「Die Zeit」というドイツの新聞の記事
「多くの国が、西側諸国と一緒になるか、ロシアと一緒になるか、という人為的な選択を迫られました。実際、それは最後通告でした。こんな攻撃的な政策の結果は、2014年のウクライナの悲劇の例で見ることができます。ヨーロッパはウクライナの反憲法的な武力クーデターを積極的に支援しました。全てはここから始まったのです。なぜそんなことをしたのでしょう?当時のヤヌコビッチ大統領は既に野党の要求を受け入れていました。なぜアメリカがクーデターを企画し、ヨーロッパ諸国は意志もなくそれを支持し、ウクライナ内国の分裂とクリミアの脱退を引き起こしたのでしょう?」
このような発言では、西側諸国は敵として見なされ、「偉大なるロシア」の危険をもたらすものとして描かれているため、ロシア国内の全ての失敗は敵との対決のせいだとされています。結局のところ、ロシア人の生活水準はあまり変わらず、そしてプーチンは、たとえそれが外国の領土に対する侵略であっても、ロシア人の闘いは神聖なものであると納得させています。したがって「一般なロシア人」が、ウクライナだけでなく、ポーランド、モルドヴァ、リトアニアを占領するというメッセージを容易に流すのは驚くことではありません。
心理的テロと国境線の修正
ロシアは代理戦争を行っています。その本質は、政治的傀儡や傭兵といった第三者を戦闘行為に巻き込むことです。しかし、それは特定の人だけでなく、例えば自称ルハンシク人民共和国や自称ドネツク人民共和国のように、地方全体を巻き込んでいるのです。資金と設備と人材(特に軍人)を投資し、侵略を促進するためです。このようにロシアは、ロシア軍参謀総長のヴァレリー・ゲラシモフが展開した「制御されたカオス」の理論を、現代のポストモダンの精神に修正して大幅に更新しました。侵略国は、現代世界のあらゆる方法を用いて、自らの裁量でルールを変えながら、勢力圏を拡大しようとしているようです。
ヨーロッパにとってほとんど気づかないうちに、ロシアは、この80年間一度も空襲サイレンが鳴らなかった「古き良きヨーロッパ」のイメージを破壊してしまいました。人々は新しい現実に直面し、一方でそれに適応しようとし、他方でそれが日常生活にならないように力を尽くします。興味深いことに、ポーランドのいくつかの都市では、ウクライナとの団結の証としてサイレンが鳴らされています。しかも、ウクライナの悲痛を利用したPRとは違い、ある朝、ロシアがどんなヨーロッパの国でも戦争を始める可能性があることを多くのヨーロッパ人が実感しているのです。普段の快適なヨーロッパ生活を背景に、このような現実の急激な変化と絶え間ないリスクは、1945年以降のヨーロッパの人々にとって最大のチャレンジです。
ウクライナの都市への定期的な爆撃、絶え間ない核戦争の脅威、エネルギーによる恐喝など、戦争に関する話題は、ヨーロッパの人々の日常生活に浸透しています。しかし、全ての国がこの不快な現実を受け入れるわけではなく、そこでは何も起こっていないように暮らし続けています。実際、それは自動的に市民の不安レベルを上げ、人々を動かし、価値観や政治的嗜好を変化させます。最も重要なことは、全ての責任を負うのは、この全面戦争を始めたロシアではなく、降伏しないウクライナだと信じ始めることです。これこそクレムリンが賭けているものです。非対面戦争の要素としての心理的テロ、ヨーロッパ人の生活を根本的に変えうるものとしての脅威の宣伝、さらにはウクライナにおける戦争犯罪とその結果に対する全世界への責任の転嫁が行われているのです。
国境という概念も移動的になり、特にロシアによるウクライナに対する戦争の中ではこのことが明らかになっています。ロシア政界の代表者や、ウクライナ東部の自称ルハンシク人民共和国と自称ドネツク人民共和国の指導者は、毎回、分離主義「共和国」の国境からウクライナ軍を遠ざける必要性を宣言しています。クレムリンの戦略によると、ヨーロッパの国境も移動しなければならないようです。なぜなら、「第二次世界大戦に勝利したソ連、アメリカ、イギリスの連合国の指導者が1945年に採択した」ヤルタ・ポツダム原則に基づく戦後の国際秩序システムの解体をしようとロシアの保守・右派の論者たちが宣言し始めているのは偶然ではないからです。オピニオンリーダーも「世界秩序を変える危機を乗り越えなければならない」というメッセージを発信しています。ロシアが始めた本格的な戦争の非常に重要な要素は国境の相対性という概念を可視化することです。そのために、例えば、2022年6月8日、ロシアの国家院は、EUとNATOに加盟しているリトアニアの独立承認を撤回することを提案しました。このような小さなステップでクレムリンは、主な存亡の敵と見なしている西側諸国の反応を試しているのです。
国際政治の 「トロイの木馬」
国際秩序システムの破壊と並行して、プーチンは安全保障にかかわる国際機構の力を試しました。ヨーロッパの過激派の目には「ヨーロッパの官僚主義」の排除、国連や赤十字国際委員会の再形成などの呼びかけでロシアは大きな魅力があります。クレムリンは一貫して国際機関のイメージを破壊し、その権威と能力を弱体化させるために活動しています。そのためにプロパガンダメディア、公の場での演説、政治的発言などが利用されます。要するにプーチンは現在の世界秩序を一歩一歩試しながら、その価値を落とし破壊しようとしています。同時に、安全保障機構が、ウクライナ領土におけるロシアの恐ろしい行動に対して絶えず「深い懸念を表示」し、その無能力さを証明しました。これらのような組織は、現代の課題に対処するための道徳的な陳腐化と無能力さを明らかにしました。
ロシアによるヨーロッパの不安定化は、ネットワーク原理に基づいています。ロシア政府とプロパガンダ扇動者たちは「北対南」「西対東」「古いヨーロッパ対新しいヨーロッパ/新しいNATO」「原住民対移民」「保守政治家対変な政治家」などの分断を引き起こしています。クレムリンは、影響力のあるエージェントの広範なネットワークに基づき、団結したEUの弱点にナラティブで圧力をかけています。こうしてヨーロッパの情勢は大きく揺らいでいます。
ロシアは、欧州文明圏の破壊に計画的に取り組んでいます。クレムリンはヨーロッパ諸国の信頼にすり寄りつつ自国の利益を促進しながら、ヨーロッパに圧力をかける味方を育成し、ヨーロッパを内部から破壊しています。そして今、ロシアの「トロイの木馬」であるハンガリーとセルビアが、ヨーロッパに対して働きかけています。その危険性は、その国々が主張している政治と経済の代替案が実際ロシアの利権にとって都合にいいものとなる点にあります。興味深いことに、ロシアは今、ポーランド、フィンランド、ルーマニア、エストニア、リトアニアなど、現在の自由なヨーロッパ諸国をロシア帝国が支配していた19世紀の領土拡張のシナリオを「引きずり出した」のです。
同時に「トロイの木馬」国のEUへの加盟はそれほど重要ではありません。ロシアの近隣諸国であることだけでも、植民地的なナラティブを広め、経済的・文化的な依存を強化することが容易になります。セルビアはその典型的な例です。2022年7月31日、バルカン半島が新たな民族間紛争の瀬戸際に立たされたのは、まさに、ヨーロッパに心理的な疲弊をかけるというクレムリンの指示に従ったセルビアが原因でした。機会として、セルビアの一部であった部分的に承認されたコソボ共和国は、2022年8月1日からセルビア人のパスポートとナンバープレートの有効性を禁止することを計画しました。コソボ北部に住むセルビア系民族は、ベオグラードの支援で抗議しました。警察官との銃撃戦もありました。セルビアのアレクサンダル・ヴチッチ大統領は、コソボがその決定を取り消すか延期するよう、国際コミュニティにあらゆる手段を講じるよう呼びかけました。2022年8月1日夜、コソボ政府首脳は、譲歩して決議の実施を9月1日まで延期すると表明しました。
もちろん、この事態に「クレムリンの手」が公然と関与していることに、傍目には気づくことは難しいでしょう。しかし、プーチンにとって、EU、アメリカ、NATO、トルコの注意をそらし、ひいてはウクライナにおける戦争から目をそらすために「追加戦線」を開くことが有益であることは間違いないでしょう。
同時に、この役割を担う国は、社会的、政治的安定性を示すことができ、ロシアの傀儡であることを推測することすらできないでしょう。そのような国の指導者たちは、ヨーロッパの発展路線に逆行するような「オルタナティブ」な意見を自分たちに許容しているのです。地政学的、社会的な違いをナラティブにし、特に宗教的な理由による地域的な領土紛争を煽っているのです。しかし、このような傀儡国家をヨーロッパのチェス盤から動かすことは非常に難しいです。概して、ヨーロッパの主要な機構に組み込まれ、その利益を抑圧されているヨーロッパ共同体の完全なメンバーであることを表明しているからです。
「トロイの木馬」の影響力には2つのレベルがあります。第一は、政府や国際機関、つまり制度的なものです。それは、当局のヨーロッパ環境における多数の「プーチンの友人」の存在、つまり彼らは「影響力の代理人」であり、クレムリンの海外での利益の代弁者であるということです。ハンガリーのオルバン首相は、プーチンを政治的なロールモデルと繰り返し呼び、特に対ロシア制裁がヨーロッパにとって有害であるという親ロシア的なシナリオを意図的に繰り返している人物です。このように、オルバンはEUの政策の正しさに疑問を投げかけているのです。そして、2022年7月25日、ルーマニアの都市ベイレ・トゥシュナドを個人的に訪問した際の演説で、彼はヨーロッパ人と非ヨーロッパ人の混血に反対し、次のように述べたのでした:「私たち(ハンガリー人)は混血ではありません…混血になりたいわけでもないのです。ヨーロッパ人と非ヨーロッパ人が混在する国は、もはや国家ではありません。」また、欧米のウクライナへの軍事支援を激しく批判しました:「NATOがウクライナに近代的な武器を提供すればするほど、ロシアは前線を前進させる…私たちがやっていることは戦争を長引かせている。」このようにオルバンが演説したところ、野党や多くのヨーロッパの政治家の間で怒りの声が上がりました。
アムネスティ・インターナショナルの事例もその例です。2022年8月4日、この人権団体は、ロシアの侵攻を食い止めているウクライナ軍が、基地を作り、学校や病院に武器を置くことによって、民間人を危険にさらしていると述べました。同時に、同団体のウェブサイトには、オレニウカでのウクライナ人の戦争捕虜の大量殺害や、捕虜となったウクライナの防衛者たちを残酷に拷問して殺害した占領者の行為に対する非難は一言もありません。
第二の影響力のレベルは、個々の政治家や実業家あるいはそのグループ、つまり個人的な影響力のレベルです。友好的、商業的、その他の利害関係により、特定の人物がロシアに忠誠を示し、直接的または間接的にヨーロッパの不安定化に加担するのです。この役割は、個々の地域、土地、集落におけるリーダーも果たすことができます。経済的、社会的危機に直面している彼らは、「ガス問題」や移民の受け入れなど、全ヨーロッパ的な流れに反対し、単に「今ではない」と考えているのかもしれません。
クレムリンは、接触してロシアの利益を促進するのに役立つ人なら誰でも利用します。そして、そのような人物=パペットの中には、ロシアの思想のためにロビー活動を行うために、大きなイメージダウンにも怯まない者がいます。そのいい例が、元ドイツ首相でクレムリンのためのドイツのロビイストでありロシア国営石油・ガス会社ロスネフチの元取締役会長であるゲアハルト・シュローダーです。そこで、2022年7月末、シュレーダーはモスクワを訪れてプーチンと会談し、ウクライナ問題を協議したとされています。その結果、会談後の8月2日「Stern」誌のインタビューで、ウクライナ戦争の外交的解決に関する交渉にクレムリンが応じる用意がありそれに対してオープンであると述べ、ウクライナ戦争はロシア政府の誤りであるとし「双方に譲歩する」必要があると付け加えました。シュローダーはまた、軍事的手段でクリミアをウクライナに返還するという考えは馬鹿げているとし、2008年にアンゲラ・メルケルとフランク・ヴァルター・シュタインマイヤーがウクライナのNATO加盟を阻止したことは賢明だったとしました。彼によれば、軍事的中立はウクライナの代替案となり得るとのことです。見ての通り、これは「トロイの木馬」の典型的な行動であり、ロシアのプロパガンダの典型的な論法であることがわかります。それどころか、クレムリンは通常、外交交渉を、戦力を蓄え、平和的計画と言われるものを示すためのポーズとしてしか使っていません。
寒い冬やその他の災害の脅威
ロシアの影響力のあるエージェントは、不安定化のプロセスをヨーロッパ大陸全体に拡大するのに一役かっています。しかし、クレムリンは彼らを通じてのみ行動するわけではありません。どの国にも存在し、紛争を誘発したり悪化させ得るくすぶっている問題意識を持ったナラティブを「温める」こともしています。しかし、そうした重要なトピックのうち、欧州のロシアへの資源依存については、制裁は主にブリュッセルに不利に働くといいます(実際、この都市はEUの首都です。)クレムリンは欧州の弱点と脆弱性のポイントを特定し、長い時間待つ方法を知っています。事実、ロシアは石炭、石油、ガスの供給リーダーとして、これらの製品を多大な費用をかけて輸出していますが、その後欧米諸国から必要な物資のほとんどを一緒に購入しているのです。したがって、ビジネスマンとして欧州諸国がこのモデルの重要な受益者となっています。しかし、制裁はヨーロッパ諸国だけに関係するものではありません。Bloombergが2022年7月7日にインドネシアで行われたG20外相会合の結果に基づいて作成し、8月5日に公表した調査によると、これらの国々の半数は制裁政策を支持せず、ロシアへの制裁発動に加わらなかったとのことです。
「Group of Twenty」またはG20
世界の経済大国20カ国の財務大臣と中央銀行総裁で構成されるグループです。その代わりに、ロシアはガスによる恐喝を行っています。これは、制裁だけでなく、ウクライナ戦争の進展にも影響を与えるためのレバーなのです。エネルギー危機とその影響(価格の高騰、2022年の暖房シーズン中に気温の5~6℃低下)は、現在自国とその領土を守り、ヨーロッパの盾となったウクライナの行動でなく、大きな戦争を始めたロシアの行動の結果なのです。
プーチンは、不安と恐怖をヨーロッパ人に常に感じさせ、西側諸国を感情的に揺さぶり弱体化させたいのです。そうすれば国際舞台における主要なアクターにウクライナへの支援をやめさせることができるとプーチンは考えています。全面戦争において、ロシアがウクライナの港を封鎖し、ウクライナの穀物を盗み、穀物庫を砲撃し、野原に地雷を仕掛け、その上で小麦の作物を焼くなど、クレムリンが食糧危機を人為的に作り出した理由はそのためです。
明らかに、ヨーロッパは飢餓だけでなく、不法移民の流入、犯罪や暴力の急増にも恐れています。ウクライナは国際市場での農産物輸出に重要な位置を占めており、ウクライナ農業政策食糧省による、小麦は世界供給の約10%、大麦は15〜20%を占めています。したがって、ロシアによるウクライナに対する戦争の影響は既に世界中に及んでおり、全ての責任がロシアにしかないことをヨーロッパは理解する必要があります。
ロシアは、ヨーロッパにおける恐怖の総体的な空間を形成している、というより、その予想を表しています。ガス危機、制裁被害など本格的な戦争の「副作用」は、各ヨーロッパ人に影響を及ぼしています。80年前からすでに文明の利器と非暴力的な紛争解決に慣れたヨーロッパ人にとって、現在の世界情勢とは予測不可能な未来や疑心暗鬼とした生活という意味します。そのため、一部のヨーロッパ人は、「我々は平和を支持する」や「戦争をやめるためにウクライナは屈服しなければならない」というポピュリズムに頼っています。そのように侵略国の側に立つことは、自国だけでなくヨーロッパ全体の生活の不安定化を深めることにしか寄与していません。
その結果、ヨーロッパの政治家は、不人気だが重要な決断をしなければならない状況に陥り、憶測が飛び交いやすくなりました。ロシアの政治家たちは、西側諸国の中で次に誰が退陣するか、ほとんど賭けているようなものです。カオスが広がったときと同様、ロシアは政府を不安定にするために、ヨーロッパの政治家のイメージを落とすことを厭いません。例えば、ボリス・ジョンソンの辞任に先立つコロナウイルス流行時のパーティーの様子、ドイツのオラフ・ショルツ首相が参加したパーティーでの「レイプ薬」等の情報をクレムリン・メディアはばら撒きました。西側諸国の政府代表の「役立たず」ぶりを示す戦術は、ロシアがヨーロッパそのものの卑しさと弱さを国民に納得させるのに一役かっています。注目すべきは、彼らが政治家の道徳的イメージに賭けていることです。「暗黒時代」には、市民は道徳的価値への厳格なコミットメントを示す「コートに包まれた」保守派を好むのです。そして、ヨーロッパにはそのような人物が少なくなってきています。
ロシアのプロパガンダ扇動者たちは、制裁の圧力を背景にニーズを最小化するアイデアを推進し、制裁を中止するために「制裁に効果がなく、ヨーロッパ人自身に害を及ぼすなら、なぜ課する必要があるのか」というメッセージを促進しているようです。また、ロシアは、自国生産の製品に切り替えるロシア人よりも、ヨーロッパ人の方が制裁で苦しんでいるという不合理的な主張をしています。プロパガンダが描いている世界では、一般のヨーロッパ人は喜びや欲望の充足、あるいは「シャワーを浴びる時間を減らす」や「食料を節約する」といった当たり前のことを否定しなければなりません。もちろん、ロシアはこれら全てを誇張し、クレムリンの力を証明するため、あるいはヨーロッパの弱さを説明するための必要なナラティブを加えています。
現在、ヨーロッパ政治界の一部は、自らの優柔不断と変化への恐れをウクライナに転嫁し、その理由で支援を遅らせ、単にウクライナの将来性を信じていないようです。これは、ヨーロッパをロシアの影響から解放するチャンスを失うことになりかねません。クレムリンの攻撃的な計画では、ウクライナだけが目的ではありません。プーチンはユーラシア主義の支持者です。その仮定は、ポルトガルからカムチャッカまでロシアの排他的影響力を与えるとしています。証拠として、クレムリンの対等な同盟国である中国との協力関係があります。
ロシアの政治とプロパガンダは、今後もヨーロッパをますます深い精神的危機に追い込み、抵抗する意志を徐々に断絶させていきます。「ウクライナは抵抗をやめるべき」「すべてを元の状態に戻すべき」といった有害なナラティブは、事態の解決に役立たないどころか、事態を悪化させるだけです。重要なのは、領土とは土地だけでなく、そこに住む人々も含まれるということです。そして、ロシアがウクライナ領土の一部だけで満足することはありえません。ロシアが世界を震撼させることを止めるのには、戦争の凍結ではなく、ウクライナの勝利という選択肢しかありません。このためにこそ、ウクライナを防衛している人たちは半年以上にわたって英雄的に戦ってきたのです。