「モトヘルプ」がどのように戦時下で活動しているか

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「モトヘルプ(Мотохелп)」は2008年に結成されたキーウのレスキュー隊で、自転車・バイクの事故時の応急処置や法的解決支援を行っています。2014年にロシアとの戦争が始まると軍の支援にも乗り出しました。さらにその後の2022年に大規模な侵略に発展すると、支援業務も拡大しました。軍の支援や輸血用の血液を輸送している様子についてや運営資金の募集に関してはWebサイトをご覧ください。

近年ウクライナではボランティア活動が活発です。ロシアによる大規模な侵略が始まると、多くの民間組織が軍と関わるようになりました。その中の1つが2014年からウクライナ軍を支援しているNGO団体「モトヘルプ」です。

「モトヘルプ」は、自転車やバイク事故に遭った人を助けるためにバイク愛好家によって運営されています。なぜなら、バイクは小回りがきき渋滞を回避して、いち早く事故現場に駆けつけることが可能だからです。救急車が到着するまでの数分間の応急処置により命を救うことができます。キーウの事故多発地帯で交代で監視業務を行ったり、事故発生の一報が入ると真っ先に駆けつけて応急処置や法的解決策の支援を行ったりしています。

2013~2014年の「尊厳の革命」の際にも「モトヘルプ」はウクライナ赤十字の一員として緊急医療支援を行いました。

2022年2月24日以降は軍の支援が主な業務となりましたが、献血・緊急医療支援・事故現場への急行・救急訓練も怠ってはおりません。「モトヘルプ」のもう1つの役割は、戒厳令下で許可されているイベントの警備です。

燃料・医薬品・応急処置キットの購入には資金が必要です。「モトヘルプ」は自分たちの活動や軍への寄付も受け付けております。また軍に向けて応急処置キットの募集も開催しました。

「モトヘルプ」の人達

彼らは常に様々な分野の専門家の助けを必要としています。もしあなたがこの活動に参加したいのであれば「モトヘルプ」宛にメールを下さい。重要な点は、あなたがどのような事をやりたいかです。面接とインターンシップを行ったのちに、他のメンバーと同様の事が出来る様にインストラクターが訓練します。このようなプロセスを経て、オリハ・ストラーティは大規模な侵略の最中にこの団体のトップになりました。

ボランティアのオリハ・ストラーティはプロのプログラマーです。彼女が働いてる会社には「モトヘルプ」でボランティアをしている人が他にもいます。オリハは2009年から様々なボランティア活動について探していたところ、ここでモトヘルプについて知りました。

「私は知人の紹介でここに来ました。これまで長い事、孤児院の手伝いに行ったり、公園の清掃や植樹活動をしてきました。」

オリハは「モトヘルプ」の代表と知り合い、この活動に参加したいと申し込みました。

「私にとってその決断は今日の人生の方向性を決定づけるものでした」

オリハは戦争に備えていました。「ついに来たわね」このようにさらりと言ってロシアの大規模な侵略に臨みました。2月24日の朝、ボランティアのチャットを読んだ後、文字通り自らの手で「モトヘルプ」に参加しました。

「私はただ、『こんにちは!ディマ(「モトヘルプ」の創設者で代表)は軍務についちゃってるから代わりに代表を務めてもいいかしら?』って書いたのです。」

それがオリハが宙ぶらりんになってしまったプロセス管理部門並びに軍の支援部門の代表になった経緯です。なお、他の部門の管理は別の人達が行っています。

応急処置キットと様々な依頼を受けて軍を支援する

「モトヘルプ」は2014年から軍を支援しています。大規模な侵略以前は医薬品による支援を行っていました。現在、チームは戦時下における応急処置のための救急キットを収集しています。彼らは1,000個以上のキットを軍に供給する事と、献血・交通事故に遭った人の支援・軍からの依頼要請といった主な業務を継続することを計画しています。これらの資金はイベントでの募金によって集められています。例えば、6月25日にチャリティーイベントが行われて軍に送る応急処置キットを購入する為の資金を募集することが出来ました。7月6日には600個のキットを供給することが出来ました。

応急処置キットは止血以外の事も行うことができる様になっています。キットの中身には止血帯・フェルトペン・イスラエル包帯・衣服を素早くかつ安全に切る為のハサミ・綿製の止血帯・絆創膏・「オピクーン」と呼ばれるハイドロゲルナプキン・手袋・ブランケット・アルコールのウェットティッシュ等が含まれています。

応急処置キットの他にも軍はドローン・担架・発電機・自動車の支援を要請してきました。ドミトロ・ブレニンは、2014年からこの活動をしてきましたが、大規模な侵略が始まってからは軍務に就いています。これまでは顔見知りの軍の関係者からしか要望を受け付けていませんでしたが、2月24日以降は状況が一変したとオリハは語ります。

「支援の要請は面識のない軍の関係者からもきました。口コミで広まっていたようです。侵略開始から最初の1ヶ月間は時間が勝負でしたので、誰か分からなくても要望を受け付けました。毎日、最大10件の依頼がありました。それらを精査する余裕はありませんでした。今は少し落ち着いてきて面識のある軍関係者からの要望に対応しています。」

要望を送ってくる軍人たちのほとんどは、「モトヘルプ」のメンバーで軍務についている人たちのものです。彼らは自分が所属する部隊から要望を送ってきます。とある旅団から自動車を調達して欲しいと依頼してきました。「モトヘルプ」には光沢のあるグレーの車がありました。しかし、軍はマット色の車両を必要としていた為、再塗装をしなければなりませんでした。オリハの兄弟は車の塗装が好きなので、手伝う事にしました。ですが光沢のない塗料はどこのお店にいっても売り切れていて光沢のある塗料しか売っていませんでした。結果的に、頑張って緑色の塗料と顔料を混ぜて塗り直しました。

他にも1台車両を購入しています。「モトヘルプ」は最前線で様々な用途に使えるコンバットピックアップトラックと呼ばれる車も調達しました。1週間で資金を集めてフィンランドから調達しました。

モトヘルプにはウクライナ国内と世界中にネットワークがあり、依頼の受け付けと物資の調達に役立っています。ですが、物資の調達が困難な時もあります。オリハによると最も困難だったのは、様々な有毒物質から身を守るガスマスク用のフィルターの調達でした。

「有毒物質や解毒する物等に関連するものは全て特殊なものです。これらを製造してる企業は一般向けには販売していないので、調達が困難でした。その為、大量に購入するには交渉しなければなりませんでした。私達は公的機関として調達して、ウクライナの他のボランティア団体や軍に供給しました。」

渋滞を回避して人を助ける

2019年以来、NGO団体「モトヘルプ」はウクライナにおけるボランティア活動の新たな道を開拓しました。それは、献血された血液をキーウの血液センターから同地域の病院や他の地域の病院に緊急輸送する事です。ボランティアによるバイクでの血液の緊急輸送は1962年にイギリスで始まりました。その組織であるBlood Bikes は現在もイギリスで活動しています。「モトヘルプ」はBlood Bikesの経験も参考にしています。その後、同じような方向性の団体がいくつかウクライナで誕生しました。

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多くの場合、血液の緊急輸送は癌診療科や産婦人科、患者の多い総合病院で発生します。これらは緊急輸送であることから、チームはバイクで渋滞を回避して可能な限り速く配達します。2021年には600回以上の配達を行いました。

大規模な侵略後もチームは活動を続けており、人々の命を救い続けています。「キーウとその周辺での状況が厳しかった際にも私達は週に数回血液輸送を行いました。危険ながらも興味深い経験でした。」とオリハは振り返っています。

 

「本当の試練は春に始まった燃料危機でした。」とオリハは回想しています。5月10日時点で27ヶ所の燃料貯蔵施設がロシア軍によって破壊されていました。何ヶ所かのガソリンスタンドは閉店してしまい、残りのガソリンスタンドに長蛇の列ができていました。そして、1人につき10リットル以上の燃料を販売しないようにされていました。ですが、「モトヘルプ」は大手燃料企業と契約を結ぶ事が出来た為、状況は改善されて通常通りに血液を配送することができる様になりました。また、キーウ州血液センターとキーウ市血液センターと契約を結ぶ事になりました。

「血小板凝縮液を癌診療科に運んだ際に実際に輸血されている患者さんを自分の目で見る事がとても大事です。新年には、ビラ・ツェルクヴァからどうしても血液を運びたいと思ったこともあり、私にとってはとても重大で重要なことでした。」

血小板凝縮液
血液由来の血小板が豊富な血漿。 体内では、血小板が止血の働きを担っている。

必要に応じて、血液センターは「モトヘルプ」のオペレーターに問い合わせます。最大10分以内に、荷物を届けてくれるボランティアがいることを通知します。オートバイで荷物を取りに行き、専用のサーモボックスに入れて、サーモボックスをオートバイに取り付ける特殊なシステムで、依頼のあった病院に届けます。

2022年7月、血液配達は成人向け癌診療科に16回、小児科に8回、キーウの病院や産科に10回の血液の緊急輸送を行いました。

あらゆる事をカバーする:交通事故への対処・医薬品支援・訓練

「モトヘルプ」の活動は交通事故現場に駆け付けるという事から始まりました。彼らの仕事は交通事故現場に駆け付けて、負傷者がいる場合は必要に応じて応急処置を行い、負傷者や警察が後に利用できるように可能な限り現場状況の情報を収集する事です。

「つまり、ボランティアたちは交通事故の様子や目撃者、事故現場近くの監視カメラがある場所、撮影可能な場所等、事故の全体像を把握している訳です。」

また、時にチームは親族や目撃者あるいはドナーを探す事もあります。必要とあれば病院に搬送された患者さんの為に医薬品の購入も行います。

医薬品の支援も、この団体の活動の一つです。ボランティアたちは、病院・軍の部隊・民間人から依頼を受け付けています。チーム内には医学的な教育を受け、それを支援する人たちがいます。本格的な戦争が始まった際、一時的に占領されていた地域からも依頼がありました。「人々はここで医療品を買い求め、必要な場所に持っていきました」とオリハは述べています。

「モトヘルプ」はキーウだけでなく、ウクライナ全土にボランティアの拠点があり、配送支援も行っています。このほかにも、リヴィウの「モトドポモーハ」、ヴィンニッツァの「ヴィンモト」など、交通事故での負傷者を支援するオートバイ団体が各地にあり、中には血液輸送を行う団体もあります。

2020年、モトヘルプは重傷者が発生した事象(負傷者を伴う交通事故・高所からの転落・大規模な負傷)の救急医療(EMS)への対応を開始しました。ボランティアの派遣により、医薬品配送が無くなるわけではなく、これらは並行して行われています。EMSに携わるすべてのボランティアは、適切な応急処置の資格を持ち、必要な設備や道具を備えたファーストエイドキットを備えています。2021年には、キーウ市内で1,000件以上の救急医療の出動に対応しました。

2014年と比較すると、「モトヘルプ」は軍に関係することに深く関わるボランティアが増えました。また、組織は戦術医学の方向へ発展し始めました。「モトヘルプ」は2012年にトレーニング実習を開始し、2014年から2015年にかけては、ウクライナの防衛している人たちを積極的に訓練しました。2015年の警察改革では、「モトヘルプ」の講師がボランティアでウクライナのパトロール警察向けに多くの講習を行いました。

本格的な侵略が始まってからは、トレーナーは軍に戦術医学を教えるだけでなく、民間人に対する「Basic Life Support」に関するトレーニングも行っています。授業では、意識と呼吸の確認・重篤な出血の停止・気道の確保・呼吸管理と安全な体位・急病時の支援・救急箱の推奨などといった応急処置の基本を学びます。同団体は、応急手当の知識と技術の普及を、自分たちの社会活動における重要かつ優先的な分野と位置づけています。

人に教えることは、ボランティアの要素の一つです。多くのリソースを投入するのだから大変な仕事だとオリハは考えています。すぐに燃え尽きてしまうため、感謝や報酬を期待してはいけない活動であると彼女は述べています。

「この活動に対する自身の中でのフィードバックや理解も必要です。私は自分のためにこの道を選びました。人は一人一人違うので、同僚に対して寛容でなければなりません。これがないと生きていけないんです。ボランティア活動のない自分というのは考えられません。」

 

2014年以降、ボランティアコミュニティは劇的に変化したとオリハは言います。彼女は、この戦争がウクライナ人を団結させ、正しい方向に向かわせていると信じています。

「ビジネスを軍のために向けた捧げた人、海外で生活していたもののほぼすべてを捨てて戦地に赴く姿を多く見てきています。そんな国に住んでいること、この国に生まれたことをとても幸せに思っています。私は友人やみなさんをとても誇りに思っていますし、ウクライナ人であることをとても幸せに思っています。」

 

支援について

本資料は、米国国際開発庁を通じた米国国民の寛大な支援により、ウクライナ独立政治研究センター(UCIPR)および民主・法治センター(CEDEM)とのコンソーシアムで「イェドナンニャ」活動・発展促進イニシアチブセンター(ISAR Ednannia)が実施したプロジェクト「市民社会のためのセクター支援イニシアチブ」の枠内で、ISAR Ednanniaの支援により作成されたものです。

コンテンツ作成スタッフ

Ukraїner創設者:

ボフダン・ロフヴィネンコ

企画:

ヴラディスラヴァ・クリチカ

編集長:

ナタリヤ・ポネディロク

編集:

アナスタシヤ・フリコ

プロデューサー,

インタビュアー:

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ムービーカメラマン:

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映像編集:

リザ・リトヴィネンコ

監督:

ミコーラ・ノソーク

音響:

アナスタシヤ・クリモヴァ

写真編集:

ユーリー・ステファニャク

トランスクライバー:

ヴァレンティン・フリイェフ

トランスクライバー:

アンナ・イェメリヤノヴァ

ヤーナ・ルバシュキナ

コンテンツマネージャー:

カテリーナ・ユゼフィク

翻訳:

西田 潤

翻訳編集:

藤田 勝利

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