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第二次世界大戦後最大の欧州危機と国際安全保障体制の揺らぎは、ロシアがウクライナに本格的な侵略をかけた結果です。侵略国のテロ行為は、戦場での民間人の死亡、民間インフラの破壊、人災につながっています。この結果は、ウクライナだけでなく、ウクライナが各々のレベルの関係を築いている他の国も感じています。

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この資料にはロシアのサイトへのリンクが含まれており、VPNを経由して閲覧することが可能です。

COVID-19の大流行から立ち直ったばかりの世界は、食糧やエネルギー価格の高騰、そして核戦争の脅威に直面しています。多くの外国人が被害にあい、ロシアは連日ウクライナの都市や村を砲撃し続けています。このように、世界情勢に影響を与えています。なぜなら、これらの危機はすべて、ロシアが始めた戦争の結果であり、占領者から自分の土地を守るウクライナ人の抵抗によるものではありません。侵略国による「軌跡」にどのような危機があるのか、お伝えします。

食糧危機

本格的な戦争が始まる前から、COVID-19の大流行による経済的影響から、世界の食料価格は上昇していました。ロックダウンの間、世界の経済活動は急激に低下しました。国際通貨基金(IMF)によると、2019年から2020年にかけて世界の平均GDPは3.9%減少し、世界恐慌以来最悪の不況となりました。行動制限が解除され、景気が回復し始めると、価格が高騰しました。

世界恐慌
1929年秋から1930年代末まで続いた世界的な経済危機で、最も影響を受けたのは西欧諸国とアメリカであった

また、パンデミックは世界のサプライチェーンに深刻な影響を与え、食料価格の高騰や世界的な飢餓の拡大にもつながっています。統計によれば、毎年約900万人が飢えで亡くなっています。ちなみに、2019年以降のパンデミックにおいては、死亡者数は650万人となっています。ロシアのウクライナでの軍事行動は、世界の食糧危機を悪化させるばかりとなっています。

写真:エフレム・ルカチキー

歴史的にウクライナは穀物の輸出大国です。2021年で、世界人口の4億人を養っています。2022年まで、年間平均5,000万トンの農産物を輸出していました。ウクライナとロシアを合わせると、世界の小麦・大麦生産のほぼ3分の1を輸出しています。また、2020-2021年にウクライナは販売用ひまわり油を527万トン輸出し、世界の輸出量の46.9%を占めました。

ウクライナの畑でとれた小麦などの穀物の約9割は、海上輸送で世界の市場へ運ばれていました。本格的な侵略が始まった後、ロシアは黒海沿岸を封鎖したため、侵略開始後の最初の5カ月間は主要航路による穀物の輸出は停止を余儀なくされました。

さらに、ロシアは定期的に農業インフラを砲撃し、作物に火をつけ、ウクライナの穀物を盗んでいます。Maxar Technologiesが5月下旬に撮影した衛星画像によると、5月にロシアの国旗を付けた船がクリミアの港で穀物を積み、その数日後にハッチを開けたままシリアに停泊していることが確認されました。同時にプーチンが、今年のロシアの収穫量は過去最高の1億3千万トンに達する可能性があると発言したことは興味深い点です。

ロシアの犯罪行為は、世界的な食糧危機を悪化させ、全世界に破滅的な影響を及ぼしています。ウクライナの穀物輸出の阻止は、世界の最も脆弱な地域の飢餓を悪化させています。穀物の供給は、長期にわたる交渉の結果、部分的に再開されました。7月22日、ウクライナ、ロシア、トルコは、黒海経由でのウクライナ産穀物の安全な輸出を再開する協定に調印しました。これによって物資の供給が妨げられることはなくなりましたが、世界の食糧事情は依然として危機的な状況にあります。例えば、東アフリカでは、継続的な干ばつ、穀物封鎖、ウクライナ戦争による経済的影響により、すでに大規模な飢饉が発生しており、この地域の300万人が死亡する可能性があると言われています。

写真:Kevin Carter.

FAO(国連食糧農業機関)によると、2021年夏から2022年夏にかけて、肉の世界価格は8.2%、乳製品は23.5%、小麦は10.6%上昇したそうです。そして、これからも上昇し続けるでしょう。国連の試算によると、最悪の場合、世界の食料価格は2027年までにさらに8.5%跳ね上がる可能性があるとされています。またFAOは、2022年までに41カ国で最大1億8100万人が食糧危機、あるいはそれ以上の飢餓に直面する可能性があると予測しています。

エネルギー危機

ロシアは世界のエネルギー市場の主要なプレーヤーの一つです。世界三大産油国の一つであり、世界最大のガス輸出国でもあります。このような原材料からの収入に大きく依存しています。例えば、2021年には、ロシアの連邦予算の45%を占めるようになりました。これにより、侵略国が政治的利益を得る際に、石油・ガス問題を操作することができます。

ウクライナへの侵略以前から、世界のエネルギー資源をめぐる状況は厳しいものでした。COVID-19の大流行から各国が立ち直り始め、急激な生産再開により、石炭、天然ガス、石油の価格が上昇しました。一方、ロシアは欧州ガス市場の独占的地位を利用して、供給量を減らし、価格をつり上げました。これは、2021年9月の国際エネルギー機関(以下、機関)の声明で述べられています。ガス価格の異常な高騰により、欧州の肥料工場の中には閉鎖を余儀なくされたところもあり(イギリスのCF Fertilisersのインセ工場の一部、ブルガリアのAgropolychimとNeochimの工場)、肥料価格は前年比300%増となりました。これは食糧事情に直接影響しました。

1月には、ロシアが欧州への供給を不当に、かつ大幅に減らしているため、市場に人為的な危機をもたらし、エネルギー価格を引き上げていることを、機関は強調し再び警鐘を鳴らしています。

ロシアからの天然ガス供給がまったく不安定で予測がつかないため、ヨーロッパはエネルギー危機に陥っています。2022年3月7日にはすでに、欧州の天然ガス価格はICE Futures取引所で千立方メートルあたり3,700ドルの歴史的高値に達しています。そして、3月のBrent原油価格は、2008年以来初めて1バレルあたり129ドル近くまで上昇しました(ちなみに、2021年3月にはこの数字は1バレルあたり60ドルから70ドル、2017年3月には50ドルから56ドルとなっていました。)

ブレント (Brent)
ノルウェーとスコットランドの海岸に挟まれた北海で生産されるオイルを精製した原油銘柄の一種

欧州の政治家たちは、ロシアがエネルギー輸出を圧力の手段として利用していると繰り返し非難しています。ロシア国営エネルギー企業大手のガスプロムが、コンプレッサーのメンテナンスを理由に、8月31日からノルドストリーム経由のガス輸出をすべて停止している点からも、この方針は明らかです。3日後に供給を再開する予定でしたが、その後ガスプロムは、漏れの発生のためと称してパイプラインを無期限で停止すると発表しました。ロシアは、パイプラインの維持と効率的な運用を妨げるとして、制裁を問題の理由に挙げました。もちろん、このようなレトリックは、国際社会、特に一般消費者の目を、ロシア軍がウクライナ領内で日々行っている戦争犯罪の問題から逸らすものです。一部の国の国民は、一刻も早く危機以前の価格に戻したいため、制裁解除で問題が解消されるという侵略国のメッセージに屈し(あるいは)宣伝する場合もあります。しかし、このような立場は近視眼的であり(ロシアに課せられた制裁を解除したり緩和したりしても、戦争を終わらせることはできず、長引かせるだけだから)、ある意味で協力主義的です。ロシアの側に立ち、それを正当化したり「私たちは平和のために」という言葉の陰に隠れることは実際にはウクライナでの全面戦争を支持し、しばしば資金援助することにつながるのです。

ヨーロッパでは、家庭や産業用のエネルギー源として天然ガスがメインであり、その4割がロシアから輸入しているものです。各国は代替策を模索し始めていますが、その結果、市場における供給が減少し、家庭や企業の電力料金の上昇につながっています。

「ノルドストリーム(Nord Stream)」
Nord Streamは、ロシア、スウェーデン、デンマーク、ドイツの領域を通るガスパイプラインで、ロシアの天然ガスを西ヨーロッパに直接供給するものである。

興味深いことに、ロシアに対する国際的な制裁、ロシアのエネルギーキャリアに対する一部の国の拒否、ノルドストリームの停止にもかかわらず、ロシアがヨーロッパへの石油とガスの輸出から得た利益の額は、価格高騰による本格的な侵略の最初の100日間において昨年に比べさらに倍増して最大930億ドルにもなっています。 これによってロシアはウクライナでの戦争を継続しヨーロッパを脅迫することができるようになったのです。

経済危機

エネルギー危機は、もう一つの危機である経済危機につながります。燃料価格が高騰すると、消費者はガソリンスタンドにおいてだけでなく、輸送コストの上昇によって食料品や各種サービスの価格が上昇するため、間接的に影響を受けることになります。ウクライナ戦争は、COVID-19ショックから回復しつつあった世界経済を直撃しました。

世界銀行総裁のデイビッド・マルパスによると、2021年から2024年にかけて世界の経済成長率は2.7%鈍化すると予測されているそうです。これは、主要な経済過程が減速し(需要が減少し、企業や事業が鈍化し)インフレ率が上昇する状況であるスタグフレーションが最後に観測された1976年から1979年にかけて記録された数字の2倍以上です。

EUの統計機関であるEurostatのデータによると、5月の欧州の消費者物価上昇率は8.1%に上昇し、1997年以来の高水準に達したとされています。6月にはすでに8.6%に達しています。

この価格高騰は、世界中の多くの人々にとって、昨日まで買えていた食料が、今日はもう買えないということを意味しています。この生活費高騰の危機は、何百万人もの人々を目まぐるしいスピードで貧困や飢餓に追いやっています。

インフレは、貧しい人々や弱い人々に最も大きな影響を与え、世界の格差を拡大させる一因となっています。国連開発計画(UNDP)の報告書によると、欧州と東アジアの後発開発途上国 はすでに景気後退(経済活動が全般的に低下する局面)に直面しているとのことです。

アジアのアルメニアとウズベキスタン、アフリカのブルキナファソ・ガーナ・ケニア・ルワンダ・スーダン、ラテンアメリカのハイチ、南アジアのパキスタンとスリランカはすでに貧困という危機の深刻な影響を経験しています。エチオピア・マリ・ナイジェリア・シエラレオネ・タンザニア・イエメンでは、最低貧困ライン以下の人々に特に深刻な影響を与える可能性があり、アルバニア・キルギス・モルドヴァ・タジキスタン・モンゴルでは、影響が最も大きい可能性があります。

しかし、影響を受けるのは最貧国だけではありません。例えば、イギリスでは物価の上昇により、基本的な食料が買えなくなり、フードバンクに頼る人が増えています。ガス料金が2022年半ばの水準で推移した場合、電気料金はさらに上昇し、イギリスだけでなく他の欧州諸国でも消費者の所得に大きな影響を与えることになります。

フードバンク
メーカー、小売店、飲食店、個人から食品を集め、飢えに苦しむ人々に配給する慈善団体

人道・移民危機

ロシアによるウクライナ侵略により、ヨーロッパでは第二次世界大戦後最大かつ最速の難民移動が起こっています。

国連によると、2022年6月20日現在、世界の難民数は1億人を超え、その3分の1が子どもであるといわれています。これは過去最高の数字ですが、2021年の国連報告によると、当時すでに過去最高を記録していました。移住の理由は、主にアフリカ諸国で起こった戦争、武力紛争、反乱、弾圧などです。

2021年末の時点で、家を追われた人の数は8,930万人に達しています。これは2020年より8%多く、10年前と比べると2倍以上になっています。国内避難民が最も多かったのは、シリア・コロンビア・コンゴ民主共和国・イエメン・エチオピア・アフガニスタンといった国々でした。現在ではウクライナもそのような国の一つとなっています。国連によると、2022年6月、ロシアの武力侵略により、1400万人以上のウクライナ人が避難し、600万人以上が他国へ避難しました。

大規模な人の移動は、人道的な問題を引き起こしています。2022年2月24日以前にも、国連は世界が必要とする人道支援に必要な資金を集めようと努めていました。しかし、2021年のキャンペーンでは、国連が望んだ資金の半分以下しか得られませんでした。そして、年々、人道的な需要と資金のギャップは広がるばかりです。このため、世界食糧計画(WFP)は、東アフリカや中東の難民などの貧困層に提供する食糧の量を減らさざるを得なくなったほどでした。

多くの難民が発生すると、避難所を提供する国、特に教育、医療、労働市場、住宅賃貸などといったような各種システムなどに新たな負担がかかる可能性があります。特に、ウクライナのように、徐々にではなく、ひと際大量に人がやってくると、それが顕著になります。

また、目的地である他国へ安全にたどり着くための仕組みが明確でないことも問題です。そのため、人身売買や犯罪集団に遭遇する危険性など、さらなる危険にさらされています。また、保護を求める人がその国に完全に溶け込めるとは限らないという問題もあります。加えて、ロシアにおける一部動員が発表された後、ロシア人は戦争から逃れてウクライナ人が一時避難していた国々に一斉に出国し始めました。そのため、国内での緊張が高まり、内紛が起こる可能性もあります。

世界では、ロシア軍の日常的な犯罪行為や核問題における侵略国の翻弄によって、帰国ではなく逃亡を余儀なくされる人々が増え、この問題に対する解決策の欠如が続いています。国連安全保障理事会は、武力紛争を防止し、繰り返し発生する長期的な難民危機を解決する能力を失いつつあります。

環境危機

ロシアとウクライナの戦争は、環境と人間の健康に広く深刻な被害を与えています。すでに明らかになっている有害な影響もあれば、長期的にウクライナや世界の生態系に影響を与えるものもあります。

2022年7月、経済協力開発機構は、ロシアがウクライナ領内で行った犯罪行為によって引き起こしそして今も引き起こしている環境問題に関する大規模な報告書を発表しました。この報告書は、侵略国が森林、陸上および海洋の生態系、生産施設、交通インフラ、さらに上下水道および廃棄物管理インフラを砲撃していることを明らかにしています。製油所、化学工場、エネルギー施設、工業用倉庫、パイプラインへの絶え間ない攻撃により、ウクライナの大気、水、土壌は有害物質で汚染され、これは公衆衛生に対する長期的な脅威となる可能性があります。これらの問題の多くは国境を超えた問題であり、その影響はウクライナ国内だけでなく、国境を越えた先にも及ぶ可能性があります。

軍事作戦は、生活廃棄物、建設廃棄物(破壊・破損した建物)、軍事廃棄物(焼けた機材、砲弾やドローンの残骸)、医療廃棄物の増加につながります。これらの廃棄物の中には有毒なものもあり、特別な取り扱い、輸送、処分が必要ですが、一方では激しい戦闘行為中には不可能であり、他方では国や地方レベルで個別の体系的な解決策を実施することが必要です。また、弾薬の残骸に含まれる有害物質が土壌に浸出し、地表水や地下水を汚染する可能性があります。加えて、不発弾の脅威も常につきまといます。

また、ロシア軍はウクライナ全土の燃料貯蔵所や製油所を砲撃し、大規模な火災や煤煙、メタン、二酸化炭素などの汚染物質の排出を引き起こしています。

これまでの戦争の経験から、これらの排出物は長距離にわたって運ばれるため、戦争が直接行われる地域をはるかに超えた人々に影響を与えることが分かっています。1990年代前半のクウェートでは、イラク兵が650基以上の油井に火をつけ、10ヵ月間燃やし続けた。その結果、砂漠に、そしてペルシャ湾に、原油が大量に漏れ出してしまったのだ。NASAによると、油を含んだ湖が約300個でき、空から煤と油の層が降ってきて、砂や砂利と混ざって、クウェートの風景の5%が「アスファルト・コンクリート」で覆われたといいます。当時の大気モニタリングの結果、石油の燃焼は世界の二酸化炭素排出量の2%を占めていました。数年後にチベット氷河で採取された氷のサンプルからは、風に乗って何百キロも運ばれてきたすすが氷河を覆っていることがわかりました。

ウクライナの生態系は、ロシアの行動によって被害を受け、世界の生態系の状態にも影響を及ぼしています。現在、国内で最も脆弱な生態系地域の44%が、激しい戦闘行為の地域に位置しています。ロシア軍はすでに国内の保護地域の3分の1以上に立ち入るかもしくは軍事行動を行っており、そこの生態系は脆弱になっています。一般的に、ウクライナはヨーロッパにおける生物多様性の35%を占めています。希少種や固有種(特定の地域にしか存在しないもの)の動植物が7万種以上存在しますが、これも戦時中にロシアによって破壊されたものです。

もう一つの問題は、ロシア人の死体がウクライナの土地から長い間運び出されないことです。時間が経つと分解され、腐って危険なバクテリアが発生し、野生動物に食べられてしまうのです。伝染病を広げるだけでなく、それに感染して死亡することもあります。また、敵の死体から出る有害な細菌が土壌を汚染し、将来それを摂取する植物や動物に影響を与える可能性があるのです。

ウクライナ沿岸での戦闘は、水生環境に大きなダメージを与えています。すでに6月には、ブルガリア・ルーマニア・トルコ・ウクライナの海岸で数千頭のイルカが死亡しているのが発見されています。また、戦争は一般住民にも影響を与え、海洋生物の南方への大量移動を引き起こすかもしれません。

ロシアは、エネルギーに関わる間接的な環境負荷も引き起こしています。パリ協定に基づく気候変動目標の達成を困難にしています。現在、EUは再生可能エネルギーへの移行を早める代わりに、ロシア産ガスの一部を排出量の多いアメリカ産ガスで代替することを計画しています。

パリ協定
気候変動枠組条約に基づき、2020年から二酸化炭素の排出を削減するための対策を定める合意。

戦争によって引き起こされた環境上の脅威は、戦争が終わって何年も経ってから顕在化することがあります。例えば2016年、ロシアはシベリアの集落に炭疽菌が発生したため、非常事態を導入したほどです。2016年、異常な温暖化により、特にその地域では、第二次世界大戦が激化していた1940年代にそこに入り込んだ炭疽菌の病原体が永久凍土から「目覚めた」というのがその理由です。そして、これにより多くのトナカイの群れが死に、凍土に埋められた動物の死体には、この病気の病原体が「残存」していたのでした。そして、戦後70年以上経った後、地域住民はその環境的影響を実感しています。

核の危機

ロシアは核兵器で全世界を脅迫するだけでなく、科学者でもその結果を予測することが困難な、本当の大惨事につながるような例を生み出しています。

本格的な侵略が始まった当初から、世界最悪の原発事故が起きたチョルノービリ原発の近くでロシアは軍事作戦を行い大量のロケット弾を保管していました。チョルノービリ原発の近くで砲撃による森林火災が発生し、大気中に放射性物質が漏れ出しました。また、交通量が多くなったことから、侵略初日の時点でチョルノービリ地区のガンマ線は年間基準量の約28倍にもなりました。

ロシアの侵略は、世界の歴史上原子力発電所の近くで直接戦争が展開された最初のケースであり、原子力発電所を武力で占領し作業員に銃を突きつけて管理を強制した最初の例です(下ドニプロ地方およびザポリッジャ地方のエネルホダールにあるザポリッジャ原子力発電所がこれにあたります。)

また、ザポリッジャ原子力発電所の近隣の集落や、時には原子力発電所自体へのロケット弾攻撃も絶え間なく行っています。9月にもザポリッジャ原発敷地内への迫撃砲による砲撃により、緊急防護措置が発動され5号機が停止し、8月には砲撃により放射線センサー3台が損傷しました。国際機関や政治家がロシアに原発周辺の非武装地帯を形成するよう求めましたが、ロシアはこれを拒否しました。

ザポリッジャ原子力発電所は、ヨーロッパで最大の原子力発電所です。もし、稼働中の原子炉で事故が起きれば、ウクライナだけでなく、近隣諸国にも恐ろしい影響が及ぶでしょう。なぜなら風が放射性物質をその場所からはるかに遠くまで運ぶ可能性があるからです。これは広大な領土の汚染だけでなく、何百万人もの人々の放射能被曝を意味します。チョルノービリの経験が示すように、爆発の影響は数世代後に及びます。

ロシア軍はウクライナの原子力発電所を定期的に砲撃し、これについてウクライナ軍を非難しています。9月には南ウクライナ原子力発電所が攻撃され、原子炉から300メートル離れた場所にロケット弾が落下しました。この衝撃波で発電所の建物が被害を受け、100枚以上の窓ガラスが割れました。

ロシアは核の恐怖を武器にして、全世界にこの種の兵器を使うように脅しています。こうして2月24日の1週間前に、クレムリンは核戦力の訓練を実施し、プーチン自身がミサイル発射をコントロールすることを発表したのです。全面戦争が始まった後である4月20日には、ロシアは新型の長距離ミサイルの実験も行っています。同時に、プーチンは「熱狂的な攻撃的レトリックに乗せられて、自国を脅かそうとしている人たちに思いとどまらせる」べきだと警告しています。

9月21日、部分的な動員を発表した際、プーチンは再び核兵器で威嚇し、自国領土が攻撃された場合、ロシアはそれを使用する用意があると発言しました。同時に、プーチンはウクライナの一時占領地域で偽りの国民投票を開催することを発表しました。つまり、それらが完了した後、ロシアはこれらの領土をロシアの一部と見なし、攻撃、つまりウクライナ人による事実上の国土防衛のことですが、それが侵略国の核兵器使用を引き起こす理由となり得ることを意味しました。その後も工作と脅迫は止まりません。さまざまな政治家が、核兵器使用の可能性について定期的にあいまいな発言をしています。例えば、9月27日にはメドベージェフ前大統領が「ロシアは必要に応じて核兵器を使用する権利がある」と発言し、9月30日にはペスコフ報道官が「クレムリンは『核のエスカレーション』に関する話題を展開したくない、すべての人に責任ある行動をとるよう呼びかける」と発言しています。

安全保障上の危機

ロシアのテロ行為は、欧州において冷戦後最大の安全保障上の危機を引き起こし、ロシアと対立するウクライナを支援するために欧州諸国は力を結集する必要がありました。ロシアは国際的な公約や合意に違反し、全世界を脅迫し、何百万人もの人々の安全を脅かしています。

侵略国は、他国の主権を組織的に侵害し続けており、ここ数十年で国際平和と安全保障に対する最大の脅威となっています。過去30年間で主権を組織的に侵害された国としてはウクライナ、ジョージア、モルドヴァがそれにあたります。

ロシアは、欧州が長年かけて構築してきた安全保障モデルを壊し、過去30年間に交わされたすべての国際公約をないがしろにし続けています。さらに、これまで中立だった国々に防衛力の強化を促しています。そのため、フィンランドとスウェーデンはNATOへの加盟を申請しました。他の欧州のNATO加盟国やアメリカも、軍事費を大幅に増やしています。他の国もロシアとの近隣関係の潜在的なリスクを理解し、必要な安全保障対策を導入しています。例えば、ポーランドは来年度の国家予算で、軍と防衛のために過去最高の970億ズロチを割り当てています。

多くの国は、共同発展や平和の追求ではなく、ロシアと戦争中のウクライナを支援するために多額の予算を使っています。ウクライナ人は、外交交渉や平和的共存ができない敵と、自分たちの幸福と命を犠牲にして戦わなければならないのです。

情報空間では「世界の問題はウクライナ戦争から始まった」という発言もありますが、その背後に誰がいるのかを強調し、忘れないようにすることが重要です。これらの危機の一つひとつは、この戦争を始めたロシアの責任であり、自国の土地と独立だけでなくヨーロッパ全体を守っているウクライナの責任ではありません。さらに、今や戦争は領土だけでなく、自由、生存権、個人としてまた独立した国家の一員としての自己の発展など、本質的な価値をめぐって行われているのです。

「特殊作戦」「解放」「平和維持活動」の名目で紛争や戦争を煽るのは、ロシアの攻撃的な政策における不変のスタイルです。したがって、国際社会は、この状況を打開する唯一の方法はウクライナの勝利であり、そうでなければ、侵略者は最終的に他の国家を侵食する可能性があることを理解しなければなりません。

支援について

本記事は、International Media Support(IMS)の支援により作成されました。

コンテンツ作成スタッフ

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コンテンツマネージャー:

カテリーナ・ユゼフィク

翻訳:

藤田 勝利

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