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現代の情報戦争とは、伝統的な戦争に情報操作・サイバー攻撃・経済的圧力・政治的混乱・心理戦などといった非軍事的手法を組み合わせたハイブリッド戦争の一部です。少なくとも2014年以降、ロシアは世論に対する影響力を含め、ウクライナに対してあらゆる侵略的手段を用いています。したがって、情報戦における効果的な対処もウクライナが勝利するための要素の一つとなっています。

ロシアのウクライナに対する情報戦争での正確なコストを見積もることは、予算情報が多くの場合機密扱いであるため困難です。国際政策研究センターによると、ロシアが西側でウクライナに対して行っている情報戦争の年間支出額は40億ドルに達します。同時に、ウクライナの情報機関によると、ロシアは2024年の春だけで、 ウクライナ情勢を不安定化させるために15億ドルを費やす計画をしていました。

ロシアは海外の視聴者をターゲットにした強力なプロパガンダ発信チャンネルを持ち、国家予算から多額の資金をメディアのために費やしています。例えば、ロシアは毎年3億ドル以上を多言語で放送している国営テレビ局「Russia Today(RT)」の財源に充てており、2023年にはこのプロパガンダネットワークの支出が史上最高となりました。プロパガンダメディアや偽情報キャンペーンへの直接的な支出に加え、ロシアはサイバー攻撃・ハッキング・トローリングといった情報戦争における他の手法も用いています。こうした活動にかかる総費用を見積もるのはさらに難しいことです。しかし、専門家は異口同音に、ロシアは過去10年の間に絶えずプロパガンダ戦略を構築し、その能力を向上させてきたと述べています。ロシアのプロパガンダの現代的な手法は、混乱させたり、関心をそらせたり、パニックを引き起こしたりするように調整されています。ロシアは、外国のパートナーの間でウクライナへの支持の弱体化を狙っています。

写真:AFP via Getty Images.

ハイブリッド戦争における情報面での侵略に対する対処は、政府・軍・メディア・NGOそして国民一人一人の協力が必要な難易度の高い課題です。

この記事では、情報分野で敵に抵抗している組織についてお伝えします。2014年に設立されたStopFakeは、事実を検証し、ロシアのプロパガンダを暴露します。「デテクトル・メディア」(ウクライナ語名:Детектор медіа)という組織は、その主要な活動に加え、ロシアとの情報戦に力を注いでいます。本格的な侵略が始まった後、「PR Army」の情報発信者コミュニティは団結し、ロシア政権のテロリズムの本質を世界に向けて発信しました。「Molfar」は軍事調査を行いプロパガンダに反証するためのOSINTコミュニティを創設しました。そして「LetsData」の専門家たちは、ネット上で拡散しているプロパガンダに基づくナラティブを調査し、その情報を撲滅するための組織にリークしています。以下より、それぞれの取り組みについて詳しく見ていきましょう。

ウクライナの組織「StopFake」の活動

この組織は2014年以来、ウクライナに関する偽情報を暴露し、反証してきました。時間の経過とともに、このプロジェクトは、クレムリンのプロパガンダを様々な角度から分析し、ウクライナや欧州連合(EU)、旧ソ連諸国への影響力を調査する情報拠点へと成長しました。StopFakeの資料は、ウクライナ語のほかポーランド語・チェコ語・英語・イタリア語・ドイツ語など11か国語で提供されています。

イメージソース:StopFakeのFacebookページ

この組織の共同設立者であるルスラン・デイニチェンコは、過去10年にわたって情報戦争を分析してきた一人です:

-2013年から2014年にかけて、ロシアがどのように侵攻の準備をしていたかを見てきました。本格的な侵略が始まってからは、ロシアのプロパガンダの量と論調が変わっただけだと思います。

ルスラン・デイニチェンコ 写真ソース:StopFakeのFacebookページ

ルスランによると、この組織はさまざまな方法で偽情報キャンペーンに対抗しています。特に、ファクトチェックとメディアリテラシーの促進を通じて行っています:
-疑わしいメッセージを見つけたら、それをチェックします。それが真実でないという十分な証拠が見つかったら、何が真実でないのか、そしてその理由を読者に説明する記事を公開します。また、一般市民・ジャーナリスト・外交官・諜報部員が偽情報を見分けるためのサポートもしています。私たちはさまざまな研修・啓発キャンペーン・調査を行っています。 私たちは、嘘やプロパガンダが人々の暮らしを脅かすのを阻止したいと考えています。

ロシアのプロパガンダに陥らないためのツールはたくさんあります:
信頼できるオフィシャルな情報源にのみ依拠すること
情報を分析し、原典を探し、批判的に思考するようにします
ロシアのコンテンツを利用しないこと
疑わしい情報かどうかチェックすること

StopFakeの出版物を読めば、敵のプロパガンダがどのような嘘をつき、どのような手法を用いているかがすぐに確認できます。

StopFakeは、情報分野での出来事が数年にわたってどのように発展してきたか、プロパガンダの論調がどのように変化してきたか等を追跡できる組織の一つです。

-2013年から2014年にかけて、ロシアのプロパガンダはウクライナ人の間での対立をあおり、ウクライナに対する侵攻を正当化しようとしました。2021年から2022年の初めにかけても、同様の活動が見られました。最初は、陰謀論的なバイオラボの話で侵略を正当化しようとしました。そして、それが陳腐なものになり、このために軍に入隊して命を捧げようとするロシア人が皆無になってくると、彼らの論調は一変しました。もっと爆撃をしろ、インフラを破壊しろ、発電所を爆撃しろ、などという声がたくさん出てきました。

もし2014年にウクライナでロシアのテレビチャンネルが、2017年にロシアのソーシャルメディアが禁止されていなかったら、ウクライナの状況はもっと悪化していただろうとルスランは考えています。おそらくもっと多くの人々がロシア軍を、パンと塩を持って歓迎したことでしょう。

-クリミアとドネツィク地方の例からもわかるように、ロシアのニュースに触れていた人々は、ロシアが何をもたらすのか、ロシアが何なのかについて歪んだ見方をしていました。彼らは、ウクライナ人は自分たちを殺したい、滅ぼしたい、ロシア語を話すことを禁止したいのであって、ロシアは自分たちに解放と援助をもたらしてくれると本気で信じていたのです。このような人々の多くは、そうではないことに気づきましたが、残念ながら遅かったのです。ウクライナでこのような人々を減らすために、誰が何の目的で彼らをだまそうとしているのかを私たちは伝えようとしているのです。

写真ソース:「デテクトル・メディア」

本格的な侵略は労働量を増やしただけでなく、チームのプロセスを変えることも余儀なくされました。移転を余儀なくされた人もいれば、海外やウクライナの安全な地域に移った人もいます。ロシアによるインフラへの砲撃によって引き起こされた最初の停電の間、組織は電気やネットワークなどが使えないことへの対処法を学びました。さらに、StopFakeの3人が、領土防衛部隊や軍の様々な部隊に志願しました。何人かは前線から戻り、働いています。

ルスランは自身の経験を語り、ロシアのメディアが信頼できる情報源ではないことを示すためのファクトチェックの重要性について語っています。

この組織のチームは、海外の政治勢力に、ロシアのメディアは人々に情報を提供するのではなく、情報のイメージをねじ曲げ、偽情報を流しているのだと認識させることに成功しました。

-2014年、彼ら(海外の政治家たち)の多くは、ロシアのテレビチャンネルを禁止するのは非民主的であり、誰が正しくて誰が間違っているかは人々が自分で判断すべきだと発言しました。しかし、繰り返しになりますが、私たちが集めたこの証拠の数々は、ロシアのテレビとロシアのソーシャルメディアが影響を及ぼすための手段であることを多くの人々に確信させました。

ウクライナのシンクタンク「デテクトル・メディア」(ウクライナ語名:Детектор медіа)

「デテクトル・メディア」は、一方ではメディアについて発信しているウクライナ最大級のメディアです。他方ではメディア関連の問題を扱うシンクタンクでもあります。この組織の使命は、ウクライナの社会に対する民主的で自由かつ専門的なメディアの影響力を強化し、その経験を民主主義世界の他の社会と共有することによって、建設的な対話を通じて課題を認識し、それを克服できる成熟した社会の発展を促進することです。

イメージソース:「デテクトル・メディア」のFacebookページ

「デテクトル・メディア」のディレクターであるハリーナ・ペトレンコは、活動分野をいくつか挙げています:

– ウクライナのメディアコンテンツの質の向上
– ウクライナ人のメディアリテラシーの向上
– 偽情報への対抗

同団体は、ロシアによるウクライナへの本格的な侵略の可能性を予測し、そのような展開に備えていました。ハリーナは次のように語っています:

-2021年末から、本格的な侵略が起こる可能性があるという予測があり、私たちはそれにどう対応するかを計画していました。そのときでさえ、私たちはすべての活動を維持できるのか、それが適切なのか、それとも何か新しいことを追加する必要があるのかという問いに答えを出してきました。その答えは、私たちの活動すべてが適切であることに変わりはないというものでした。

ハリーナ・ペトレンコ 写真ソース:「デテクトル・メディア」

2022年2月24日、従業員は安全上の課題に対処して、一部の従業員は安全な地域や海外に移動しました:

-ヴィリニュスに代表事務所を開設しました。私たちのチームから3人がそこへ向かいました。その後、徐々に全員がキーウに戻りました。再び全員が離れた2回目の波は、電力供給に問題が生じたときでした。地域のどこかに発電機を設置できる個人の家があれば、そこに向かうことを許可しました。

さらに、2月24日以降、新たな試練が訪れました。組織の従業員のうち数名が動員され、国を守り、残念ながら命を落としたのです。

本格的な戦争の勃発に伴い、限られた人しか扱えず、また専門家が大量の情報を扱うSNS上の偽情報を含む情報空間を徹底的に監視するようになりました:

-人工知能や機械学習など、さまざまなITツールを使う必要があります。実際には、世界中にあるあらゆるITツールの中から最適なものを選ぶことはできません。戒厳令により海外送金が制限されているからというだけで、サンフランシスコに行って自分たちのためのツールを選ぶことはできません。そしてこのことが、私たちの業界が最新の技術を導入することを妨げているのです。私たちは、自社で(社内のスタッフで)同じものを複製して作るか、限られた調達品で作業するしかないのです。

ハリーナによれば、ロシアは情報に関して豊富な知識と経験を持っているとのことです。
ロシア人は同時多発的に、さまざまな方面に働きかけます。

-彼らは、それが成功するかどうかも意識せずに活動することが時々あります。例えば、本格的な侵略が始まるずっと前に、ロシアはTelegramで偽情報のTelegramチャンネルのネットワークを作りましたが、本格的な侵略が始まった後にこのメッセンジャーがウクライナの第一の情報源になるとは予測できませんでした。大規模な侵略が始まる前或いははそのわずか1週間前に、ロシアが占領した或いは占領しようとした町や村に特化した匿名のTelegramチャンネルが何百も出現したのを私たちは確認しました。そこでは、町の人々のためにコンテンツを発信し、その中で親露的ナラティブを発信していました。

写真:Julio Cortez / AP.

チームは敵に対抗するため、暴露的なコンテンツを作成し、独自のプロジェクトを開発し続けています。成功例のひとつは、ロシアの利害のために活動する個人を論証し追跡することを目的としたプロジェクトです。専門家が強力な証拠に基づいて彼らのプロフィールを作成しました。それから2023年には、これはメディア側の協力者、つまり占領地の自称政府当局に協力し、現在も協力している人々に関する特別なプロジェクトに発展しました。

最終的に、この情報は法執行機関や諜報機関の注目を集め、現在ではウクライナの国家安全保障に対する一部の人々による犯罪行為の証拠として使用されています。

OSINTチーム「Molfar」

Molfarの歴史は2019年に始まりました。
専門家たちはニーズに合ったリサーチ・情報調査および分析の分野でサービスを提供しました。

2022年にロシアによるウクライナへの本格的な侵略が始まると、この組織はOSINTコミュニティを創設しました。現在、Molfarチームの一部は軍事調査・プロパガンダに対する反証・戦犯の特定・地理空間情報の分野に完全に特化しています。

オープンソースインテリジェンス(OSINT)
オープンソースインテリジェンスとは、法律に違反することなく、公開された情報源から軍事・政治・その他の情報を取得し利用する技術のことです。

イメージソース:MolfarのFacebookページ

OSINT団体MolfarのPR部長であるダルヤ・ヴェルビツィカ 写真はimi.org.ua用にダルヤ・ヴェルビツィカから提供されたものです。

PR部長のダルヤ・ヴェルビツィカは、会社ではすべてが証拠に基づいて動いていると述べています。彼らはロシアの偽情報に対抗し、ウクライナに関する真実を広めるためにそれを利用しています。
この組織における主な業務の柱は以下の通りです:

– ビジネスディレクション
ビジネスアナリティクス・ビジネスインテリジェンスおよびビジネスオーダーのための情報調査に関連するすべてを含みます。

– 軍事調査
これらは無償で行われています。調査結果は、ウクライナ国内外に発信されます。

– メディアリテラシー研修
政府機関・ボランティア・ジャーナリストに無料で提供されています。民間団体からの要請があれば、商用のものも可能です。

– コミュニティ
インターンのコミュニティを作り、クエスト・タスク・トーナメントなどを実施しています。

他の組織と同様に、Molfarは情報戦においてロシアだけでなく、親露的でテロリスト的なナラティブを発信している組織やオピニオンリーダーにも対抗しています。

-Human Rights Watchの活動の例を挙げたいと思います。これはアメリカの組織で、不愉快な報告書や親露的な声明を常に発表しています。このような非難は国際社会に大きな影響を与えるので、それに対抗する必要があります。

ダルヤによれば、Molfarチームは全面戦争の中で活動する上で困難に直面したようです。中でも組織上の問題がありました:

-ドニプロにメインオフィスがあったので、ここに残ることにしました。停電の問題もありました。他の人たちとコーワキングスペースを借りることもできませんでした。というのも、私たちの仕事の具体的な内容はロシアに対する調査だからです。ですから、居場所を明かすことはできませんでした。私たちは積極的に多くの機材を購入し、解決策を探そうとしました。最大の課題だったことのひとつは、1年半でキーウにゼロからチームを結成したことでした。現在(2023年末現在)、チームメンバーは10人を超え、オフィスや電気の供給も安定しています。

さまざまな困難があるにもかかわらず、当組織はロシアが流布している偽情報に対抗し続けています。敵の情報戦の手法の中で最もポピュラーなものは、情報・心理作戦と、砲撃やそれによる犠牲者に関するフェイクです。これに対して、Molfarは事実確認を行い、状況を研究し、偽情報に対する反証を行っています。

-マリウポリのドラマ劇場や産科病院(ウクライナ人自身が自分たちを砲撃したという嘘に対して反証しました。)などについてです。ウクライナの子供たちの自発的な強制追放に関する偽情報にも反証しました。

情報・心理作戦
情報・心理作戦とは、海外の聴衆に対して特定の情報を計画的に伝達し、彼らの批判的思考・感情・意志・行動に影響を与えることです。

このチームの業務には、ロシアのオンブズマンであるマリヤ・ルボヴァ=ビェロヴァに関する調査や、ウクライナにおける戦争だけでなく世界各国の紛争に関与しているロシアのPMCに関する記事なども含まれています。

イメージソース:MolfarのFacebookページ

専門家たちは「エンゲルス-2」空軍基地のロシア人パイロットに関する情報も収集しました。特に、中国が制裁を回避してロシアに無人機を供給する方法や、カホウカ水力発電所の人災に関する資料もあります。

加えて、ウクライナの敵やウクライナを裏切った人物に関するこの組織によるリストも注目に値するもので、しばしば海外メディアから引用されたり、特殊部隊からリクエストを受けたりしています。

NPOである「PR Army」

2022年2月24日にロシアによる本格的な侵略が始まった数時間後にPR Armyは設立されました。ウクライナの情報発信者たちが団結し、ともにロシアに立ち向かいました。組織の共同設立者でありUkraїner Internationalの編集長であるアナスタシヤ・マルシェウシカによると、約700人のメディア関係者を団結させ、6ヶ月間で業務システムを構築することに成功したとのことです:

-私たちの使命は、ロシアとその同盟国に対する勝利に貢献することです。ここで重要なのは、ロシアについてだけでなく、世界の安全保障システム全体について、そしてそれがどのように相互に関係しているのかを考えるということです。

イメージソース:PR ArmyのFacebookページ

専門家たちは、ロシアによるウクライナに対する戦争をめぐる時事的な問題を常に国際メディアで発信し、新しい角度からの情報収集を行い、専門家を提案しています。これらはすべて、ウクライナが海外メディアから注目され続けるために行われていることです。

-ソ連時代、いやそれ以前から、ロシアは軍事的手段では西側諸国に勝てないことを認識していました。そのため、長年にわたって偽情報を利用し、メディアを買収し、独自の情報空間を作り出してきたのです。さらに、ロシアはテロ組織を支援しています。

写真ソース:アナスタシヤ・マルシェウシカのFacebookページ

PR Armyの主な役割を、アナスタシヤは次のように述べています:

– 国際メディアにおけるウクライナに関する報道を継続的に行うこと
同組織は海外メディアに重点を置いており、ウクライナではほとんど活動していません。

– 自由という声
この組織は、国際メディアに積極的に働きかけているウクライナの専門家の大規模なデータベースを持っています。ウクライナの専門家が自国について発信し正しいメッセージを伝えることが重要です。

– ロシアの軍縮
その顕著な例が、ロシアに未だに入り込んでいる西側の技術と、それを使ってウクライナ人を殺害するための武器やミサイルを開発している状況です。情報発信者たちはこの話題を積極的に発信し、海外のメディアでこの問題を取り上げるよう努めています。

– 議論の促進
現在、当団体は、民間人の人質拘束とウクライナ人に対するロシアへの強制追放について訴えており、これが戦争の偶発的な結果ではなく、ロシアの計画的な政策であることを証明することを目標 一つとしています。これは、「Where Are Our People?」というプロジェクトに発展しました。

環境危機や食糧危機、占領下にあったときのチョルノービリ原子力発電所など、特定の分野にも取り組んでいます。PR Armyは、ザポリッジャ原子力発電所や、ロシアに何の働きかけもせずにその機能を果たさなかったIAEAの無策ぶりについて情報を発信しました。この組織はまた、文化やLGBT+の権利に関するテーマも取り上げ、民主国家としてのウクライナのイメージを支持し、アイデンティティに対するロシアの犯罪行為を暴露しています。アナスタシヤは、情報戦の主要なアプローチとしてのファクトチェックにこの組織が意図的に焦点を当てていないことを述べてします:

-ファクトチェックも重要ですが、それだけではナラティブを克服することはできません。対抗するには、そのためのナラティブを作り出す必要があるのです。

PR Armyの業務の複雑さは、組織が真実を発信するだけでなく、ウクライナの状況に対する誤解という壁を打ち破る必要があるという部分にあります:

-メディアは注目を集めるために戦い、常に印象的なストーリーを探しています。例えば、私たちはウクライナ人に対する強制追放というテーマで重要な役割を果たしてきました。この話題に注目し続けるのは難しいです。強制追放された子どもたちに関する悲劇的なストーリーは求められていますが、子どもたちにトラウマを植え付けるわけにはいきませんし、メディアがより多くの視聴者を獲得する手段としてこの問題を利用することも許されません。

写真:Paul Zinken / AP.

PR Armyの専門家たちは毎日、親露派のナラティブや偽情報に対抗しなければなりません。アナスタシヤによれば、ロシアのために活動する財団や組織もあるとのことです。例えば、「ロシア世界」(ロシア語:Русский мир / ルスーキー・ミール)財団は、ロシアのナラティブを広めるために、西側諸国の学者に資金を提供しています。ロシアのプロパガンダの例として、2023年10月のハマスによるイスラエルへの攻撃をロシアが利用したことにアナスタシヤは注目しています:

-ロシアは彼らにウクライナで鹵獲した兵器を与え、ウクライナがテロリストに兵器を売っていると主張し始めました。

ガザ地区との境界線にある損傷したMerkava Mk 4戦車 写真:パレスチナメディア.

もう一つの例は、敵からの影響力を持つモスクワ総主教庁系の正教会をウクライナが撲滅し始めたときです。ロシア人はウクライナ人が宗教を破壊したいと考えているとアメリカで宣伝しました。その理由のひとつは、世界の正教会のかなりの数がモスクワ総主教庁の所属であることです。したがって、アメリカの正教会もすべてロシア系で、プロパガンダを流布するための中心地となっています。

-彼らは、ウクライナ人が破壊しているとか、信仰を迫害しているとか、そういう話を信者に語っているのです。もちろん、私たちはこれと戦い、ウクライナ正教会やウクライナのプロテスタントおよびバプテストについて多くの記事を書いてきました。例えば、軍の司祭や様々な宗派の宗教指導者へのインタビューを行いました。

PR Armyが取り組んでいるテーマはこれだけではありません。専門家たちはさまざまな問題を提唱しています。例えば、PR Armyが共催したアメリカへの出張では、強制追放された子どもたちの話が国連で紹介され、アメリカの俳優リーヴ・シュレイバーの参加を得て、アメリカ最大のテレビ局CBSとCBCで放映されました。子どもたちに対する軍事化に関する資料は、EuronewsとThe Guardianで7カ国語にわたって発表され、チームはThe New York Times・Arte(フランス・ドイツ)・SVT(スウェーデン)による強制追放に関する調査に貢献し、Le MondeやLe Libreといったメディアで記者会見や出版物を通じて2022年にフランスとベルギーのジャーナリストたちと協力した最初の人々となりました。リトアニア・イギリス・フランスのメディアでは民間人捕虜の話題が取り上げられ、ドイツのRNDやイタリアのCorriereといったメディアでは、制裁強化とロシアの軍産複合体を弱体化させることの重要性が論じられました。当団体は、砲撃・戦争犯罪・地雷敷設、ロシア選手やロシアの文化人に対するボイコットなどさまざまなテーマを取り上げ、合計で70カ国以上の地域において約6,500件のメディア掲載を達成しました。メディアとの協力に加え、チームはウクライナ国内外で啓発イベントを開催し、ロシアの犯罪の歴史的経緯について研究しています。例えば、歴史観に対するロシアによる情報操作に関する研究はNATOで発表されました。

ウクライナ人の間では、世界はウクライナで起こっていることに関心がないという失望が広がっています。そうではないと私は思います。特に意思決定を行う人たちの間では。本格的な侵略によって、多くの国々がアプローチを変える必要があることが示されたと思っています。その良い例が、ロシアの主要パートナーだったドイツです。(本格的な侵略が始まってからの)最初の1年で、この国はおそらくロシアのエネルギー資源をすべて放棄したでしょう。同様にフランスも、マクロン大統領のアプローチが変わりました。

マクロン仏大統領とゼレンシキー大統領 写真ソース:president.gov.ua.

アナスタシヤは、ウクライナへの援助や制裁は唐突に行われるものではないと述べています。これらはすべて、多くの人々の組織的な取り組みによるものです。どの組織にも、国際レベルでウクライナの国益を守るためにロビー活動を行っている人々がいます:

-私や私たちの組織全般にとって、前線で犠牲となっているウクライナ人をできるだけ少なくするために出来る限りのことをすることが、主な動機のひとつです。外交的・情報的な要因が無ければ、ほとんど何も生まれないのが国際社会であると言えます。ですから、これが重要でないかのように見なすのは、かなり甘い考えです。 というのも、私の考えでは、この戦争が起こっている理由のひとつは、ウクライナがある時点で情報戦に負けてしまったからです。これには論理的な理由と歴史的な背景がありますが、再び負けるわけにはいきません。

分析チーム「LetsData」

LetsDataは、本格的な侵略が始まった後に設立されたウクライナのスタートアップです。この組織の活動は、これまでの組織の活動とはやや異なり、テクノロジーを使って偽情報を探索し、他の組織がそれに対抗するというものです。

イメージソース:LetsDataのFacebookページ

クセーニヤ・イリュク 写真ソース:クセーニヤ・イリュクのlinkedinページ

LetsDataの重要な価値は社会的使命と変革の推進力となることだと、共同創設者のクセーニヤ・イリュクは述べています。さらに、この組織は政党との協力を禁止する明確なポリシーを持っています。一方で、専門家たちは民主主義国の国家機関や、誠実で透明性のある民間組織からの依頼に応じています。

-本格的な侵略が始まる前、共同創設者のアンドリー・クソウと私は(メディア分析の分野で)さまざまな実験やテストを行っていましたが、実際には、自分たちの興味・喜び・利益をこれにより得られていました。そして2月24日以降、私たちは、情報空間全体をリアルタイムで分析し、その中の偽情報を理解することができる先進的な技術ツールが求められていることに気付いたのです。

クセーニヤは、自分たちの会社は偽情報を探知するためのレーダーのようなもので、検知・把握・予測の各分野で活動していると話しています。専門家たちは人工知能を利用し、常にリアルタイムで情報分野をスキャンし、偽情報キャンペーンの兆候をいち早くキャッチします。このチームの仕事は、こうした兆候を見つけ出し、偽情報に対抗する人々を支援することです。

-早期に発見すればするほど、事前に行動する機会と時間が増えます。偽情報キャンペーンがすでに行われている場合は、まったく別のツールを使う必要があります。私たちは、クライアントが先手を打つことができるように心がけています。クライアントが何らかのアクションを起こすと、すぐに効果測定を開始します。

LetsDataの機能には、電子メールや電話へのアラート通知があり、これにより迅速な対応が可能です。クセーニヤは次にように説明しています:

-企業は私たちのアラートに反応し、対策を開始します。しかし、あるメッセージの出現を確認したものの、それに反応する必要はない、というアラートの場合もあります。つまり、どこにも拡散する可能性がないということです。偽情報がどのような読者を対象としているのか、それが実際に拡大する可能性があるのかが理解されていない場合に、そのような偽情報に対する反証が行われることがあります。時には、良かれと思ってその偽情報を情報空間に流してしまう人もいます。

写真ソース:linkedin LetsData.

多くの組織と同様に、LetsDataもデータへのアクセスなど技術的な課題を含む問題に直面しています:

-私たちは、あらゆるメディアやソーシャルネットワークなどのデータを分析しています。ソーシャルネットワークの中には、このようなデータを入手することが非常に困難なものもあります。私たちは倫理に基づいたアプローチで活動しているため、許可された情報のみを収集しますが、残念ながらその量には限りがあります。しかし、禁止事項を無視しても構わないという敵対的な企業も存在します。私たちはそのようなことはしません。

LetsDataチームは、2022年10月24日以降に占領された人口密集地と最前線地域の地元Telegramチャンネルの発言を分析しました。クセーニヤは次のように述べています:

-私たちは、プロパガンダや偽情報に対抗する方法について、様々な実践的事例や提言を含む研究を発表しています。これらの知見に基づいて、地方自治体にはさまざまな提案がなされました。彼らはさまざまな政策や方法を打ち出し、実践しています。そして、十分に良い結果が得られています。

ロシアにより強制追放された子供たちが家へ帰っている様子 写真ソース:「ラディオ・スヴォボーダ」

国際的なプロジェクトの中で、子どもたちに対する強制追放に関する正しい情報を普及させた例があります:

-私たちはウクライナ外務省やさまざまな団体と協力しました。ある日、ウクライナの子どもたちに対する不法な強制追放に関するテーマが、海外の視聴者に対してロシアのナラティブが浸透する割合が最も低いという洞察を私たちは彼らに提供しました。これは、直接的にナラティブに対抗するのではなく、ロシアが提供している描写が真実ではないことを説明するための正しい情報を広める機会となりました。PR Armyはこのようなテーマに取り組んでいました。そして、ヨーロッパのメディアにおけるロシアのナラティブを完全に撲滅することに成功しました。これは大きな勝利であると私は考えています。なぜなら、ウクライナの子どもたちに対する不法な強制追放という問題でプーチンに対して逮捕状が発行されたのですから。

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翻訳:

藤田勝利

Ukraїner Internationalコーディネーター:

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Ukraїner International編集長:

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